東京工業大学 理学院 物理学系
物性理論グループ 古賀研究室
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物性理論・強相関系
古賀研究室では、量子力学や統計物理の方法を用いて、物性基礎論ならびにその応用に関する研究を行っています。特に最近話題となっている冷却原子系、軌道自由度を持つ電子系、量子磁性体などに見られる興味深い物性をミクロな観点から解明すべく、"強相関系の理論"を展開しています。これらを研究する方法として、平均場近似、摂動展開などのオーソドックスなものや、厳密対角化、量子モンテカルロ法、数値繰り込み群などの数値計算を組み合わせた手法も用いています。

物性物理学にはチャレンジングな話題が盛りだくさんです。私たちは、これらの物理学の基本に関わる問題を取り上げ、多体電子論を駆使して最先端の物性理論研究を行っています。最近取り上げているテーマの例として、以下のものがあります。
非平衡開放系における量子多体物理
極低温に冷却された原子集団(冷却原子系)による実験技術の発展は、系のパラメータの自在な制御に加え、散逸の制御や1原子レベルでの観測をも可能にしました。例えば、Yb原子系において、光会合と呼ばれる技術を用いて粒子ロスを制御することが可能であり、開放系特有の非平衡相転移等が報告されています。また、観測によって量子系の情報を取り出す際、観測者は環境としての役割を果たし、観測の反作用は量子状態に無視できない変化を引き起こします。特に、冷却原子系のような極限の解像度の下での物理では、観測による反作用の影響が顕著となります。これらは、孤立系の物理の枠組みを超え、環境との相互作用が主要な役割を果たす開放系の物理を探索する舞台が開かれたということを意味し、量子情報・物性物理・統計力学等幅広い分野と関連する近年のホットトピックスの一つを形成しています。
準周期構造を持つ強相関電子系
1984年に結晶でもアモルファスでもない準結晶が、急冷したAl-Mn合金において発見され、準結晶が盛んに研究されています。この系の原子は規則的に配列しますが、周期性を持たないため、通常の結晶にはない5回,8回,10回,12回対称性が許されており、その興味深い準周期構造が数理的にも注目されています。2012年に希土類元素Ybを含む準結晶Au-Al-Ybが合成されました。この系においては、中間価数をもつYbが、極低温における比熱や帯磁率における異常(量子臨界現象)に対して重要な役割を果たしていることが示唆されており、強相関電子系における準周期性が最近のホットトピックスのひとつとなっています。
キタエフ模型と量子スピン液体
磁性体における磁性の起源は電子のスピンであり,その性質を理解するためには,電子のスピンの間の相互作用を理解することが必要です。これまで,様々なスピン間の相互作用を記述する模型が提案され,磁性現象の説明に成功してきました。一方で,スピンを量子力学的に扱うと,その多体模型は解くことが困難な場合も多く,強い量子揺らぎを持つ磁性体の研究は,現在もなお,最前線の研究課題として位置づけられています。A. Kitaevによって2006年に導入されたキタエフ模型は,量子スピン模型の1つであり,非常にシンプルな模型にも関わらず,最近,磁性体を扱う固体物理の研究分野のみならず,統計基礎論,量子情報などの様々な分野で注目を浴びています。固体物理の視点から見たとき,最も重要な特徴は,キタエフ模型が量子スピン液体を基底状態に持つことです。量子スピン液体は,1973年にP. W. Andersonによって液体ヘリウムのように強い量子ゆらぎによって絶対零度まで固化(秩序化)が妨げられた状態からの類推として提唱されました。それ以降,この状態は磁性体研究において最も重要な研究対象の1つであり続けています。また,強いスピン軌道相互作用を持つイリジウム酸化物では,キタエフ模型がその磁性を記述できると考えられています。キタエフ模型の研究が,量子スピン液体や強いスピン軌道相互作用を持つ磁性体の性質の解明につながるものとして,注目されています。
相関電子系の非平衡物性
近年、レーザー技術の発展により、物質を様々な条件で励起しその高速ダイナミクスを観測できるようになりました。このため、相関電子系の非平衡物性の分野が注目され、研究が盛んに行われています。物質を外場により駆動し非平衡状態にすると、平衡系では思いもよらない様々な興味深い現象が引き起こされます。例えば、外場による物性操作が可能であり、超伝導相や平衡状態では存在しない相を光によって生成する光誘起相転移や周期外場により物性を操作するフロッケエンジニアリングの研究が精力的に進められています。また、励起後の系の時間変化を追うことで、超伝導中のHiggsモードなどの集団励起モードの観測や秩序相の起源の特定が可能になり、物質の光励起は物性の観測手法としても重要です。さらに最近では、高次高調波発生(強励起により入射光の整数倍の周波数をもった光が放出される現象)も固体中で報告され、非平衡物性の分野はさらなる広がりを見せています。実験としては、固体はもちろんのこと冷却原子系でも研究が進められています。これらの興味深い非平衡現象の理論的なメカニズムの解明と探索が求められています。
冷却原子系と光格子系
最近、研究の進展が著しい系に冷却原子系があります。この系においては、閉じ込めポテンシャルの大きさ・形状、ならびに粒子の統計性(フェルミオン、ボゾン)だけではなく、冷却原子間相互作用の大きさも実験的に制御することができます。実際、理論的に予言されていた超流動状態におけるBEC-BCSクロスオーバーが、冷却K原子系において観測されています。また、対向するレーザーを用いて周期ポテンシャルを作り出すことにより、冷却原子を周期系に閉じ込めた光格子系も形成され、欠陥のない理想的な格子系として注目されています。この格子中においては、超流動状態、モット絶縁体状態などのよく知られた量子状態に加えて、超固体状態の可能性も指摘されており、冷却原子系に関する研究が広がりを見せています。
軌道自由度を持つ強相関電子系
遷移金属酸化物に代表されるd電子系においては、縮退した軌道波動関数の空間依存性により、様々なタイプの磁気秩序、軌道秩序、超伝導等の興味深い物性を示すことが知られています。典型例として、スピン三重項ペアにより超伝導が実現するルテニウム酸化物Sr2RuO4があります。この系においては、SrをCaに置換することにより超伝導状態が消失し、軌道に依存した特異な振る舞いが現れます。一次元的な構造をもつ軌道においては、Caドープとともにバンド幅が減少し、量子臨界点において金属絶縁体転移が実現します。一方、二次元的な構造をもつ軌道の電子は金属的な挙動を示します。このことは、通常の金属絶縁体転移とは異なり、縮退軌道のうちある特別な軌道のみが転移を起こす軌道依存モット転移の存在を示唆しています。この軌道依存モット転移の性質については、実験的研究が盛んになされていますが、理論的には自明でない興味深い問題を含んでおり、軌道自由度をもつ強相関電子系の新たな物性として注目されています。
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