領域代表挨拶

 スピントロニクス研究は、1990年代に産声を上げ、その後20年間着々と進化し、現在に至ってもその勢いは衰えていません。この分野は歴史的にわが国が強く、当新学術領域研究に参画するメンバーも、スピン移行トルク、スピンホール効果、逆ファラデー効果、スピンゼーベック効果など興味深い物理現象の発見に大きく貢献しています。“スピン流”という言葉や概念を固体物理の研究者のコミュニティーに定着させたのも、スピントロニクス研究活動の一つの成果であるでしょう。その後、スピン流の範疇も広がり、現在ではスピン波、円偏光、振動などを含む角運動量流として認知されています。
 本新学術領域研究では、これらの角運動量流に深く関わる遍歴電子スピン、局在電子スピン、フォノン、フォトンに着目してそれらの新奇な相互変換機構の開拓や学理の構築を目指します。また、しっかりと基礎固めされた物理に基づく従来にはない新奇な概念や手法を提言し、産業界の要求にも耐えうるスピン変換物理を創成することも最終的な目標とします。理想的には本研究領域の成果を実用的なデバイスの開発や環境発電等の新パラダイム構築に資する研究成果を提示したいと考えています。
 今後この分野の勢いを維持していくためには若手の優秀な人材の育成と確保は最重要課題の一つです。日本国内の人材の絶対的な人員の確保、その研究遂行能力の向上に加えて、革新的進歩を担う「トップレベルの人材」の育成を推進することは当然のことです。しかしながら、高齢化社会・理科離れに苦しむ日本国内のみに目を向けるのではなく、国外から発掘した優秀な人材を、本研究領域研究を通じて育成し、世界的にプロモートすることも、長期的に見て我が国が本領域に関わる最先端の基礎科学・技術において世界をリードする研究拠点になる一つの道と考えています。

 最後になりますが、本領域研究が、研究者、そして日頃生活し働いている地域社会の全ての皆様に大きく貢献できる成果を生み出し、成長していくことが私の心からの願いです。