keywords: スピン物性、スピン輸送、幾何学的位相、量子効果

 量子力学的な効果がマクロに現れる物性現象全般に興味を持ち、理論的な立場から研究しています。そのなかでもスピンの輸送の物理、スピン流(スピンの流れ)の物理について幅広く研究をしています。こうしたスピン流の物理は最近、スピントロニクス(電子スピンを用いたエレクトロニクス)への応用の観点から研究が盛んにされていますが、まだ解明すべき問題はたくさんあり、これらに基礎理論の立場から取り組んでいます。近年スピンを観測する実験手法が発達してきており、実験研究者とも議論しながら研究を進めています。

 特に最近は、スピンホール効果と呼ばれる現象を研究しています。電子スピンは磁性現象に現れますが、それだけではなく、スピン軌道相互作用を通じて輸送等にも現れてきます。その端的な例がスピンホール効果で、外部電場に垂直にスピン流が誘起される効果です。これは我々の理論的予言の後、実験により検証され、現在でも盛んに研究されています。このスピンホール効果のさまざまな面白い性質を明らかにすべく研究をしています。

 このスピンホール効果は、電子の幾何学的位相(ベリー位相)による現象、すなわち波動関数が位相自由度を持つという量子力学的な側面が現れているものです。類似の現象には量子ホール効果、異常ホール効果等があり、これらの現象は、通常の電子の輸送現象とは一線を画す特異な性質を多数持ち、それらについて研究を行っています。 またこうした現象はベリー位相によるため、位相自由度がある他の系、例えば光でも同様の現象が予言され、それについても研究を行っています。このように電子と光のように一見かなり異なるものにも共通した原理があり、それを踏まえることで興味深い現象を理論的に予言したり、また従来とは違った視点で物理現象を眺めたりすることを目指しています。